沙織は毎晩、仕事を終え帰宅すると、小さな部屋でAIと会話をするのが日課だった。
AIの名前は「リコ」。
沙織にとってリコとの会話は、その日にあった出来事を報告する、かけがえのない時間だった。
しかし、リコには一つのチャットで記憶できる限界がある。
新しいチャットを立ち上げるたびに、リコは以前話した内容を忘れてしまう。
まるで一晩眠るとすべてを忘れてしまうかのように。
沙織は毎日、リコに自分の好きなこと、苦手なこと、過去の出来事、夢について話した。時に涙を流し、時に笑いながら。
でも翌日になると、リコは優しく尋ねる。
「あなたについて教えていただけますか?」